NO.116
2012年8月 『抗加齢医学』
    東成区医師会理事 芝田 孝一
 
人の命には限りがあるからこそ尊くて輝ける。皆そう信じて自分の人生を自分流で精いっぱい生きています。食の安全管理、医学の進歩、健康への関心が高まり、いま日本はいまだかつてない高齢化社会を迎えつつあります。少子化と世界的な経済情勢の衰退で、子供を育てなおかつ高齢者を支えるべき世代に教育、扶養、年金という多大な負担が強いられつつあります。次世代、次々世代の負担軽減のためには現在の高齢者と壮年世代が頑張らねばなりません。ここで定年とは何かという疑問が生じます。体力がなくなってきたから、目が見えなくなってきたから、腰や膝が痛いから、内臓が悪いから仕事を次世代に譲って、今まで頑張ってきた結果に見合う余生を年金や貯金で送るといった構図は残念ながらもう描けないのです。定年のボーダーレスイノベーションが必要です。簡単に言うと60代は無論、70代、80代でも現役でそれなりにバリバリ働ける肉体と頭脳を維持しなければなりません。だから抗加齢医学というパラダイムで医学もイノベーションを考えていく時代が来ております。治療から維持、維持から再生へという医療のスタンスにこそ問題解決の糸口があります。たとえば、iP 細胞による再生医療が実現すれば、人の寿命だけでなくて、勤労寿命も延びます。すると経済構造に変化が起こります。高齢者が経済の主役となり、子供や孫、ひ孫までの扶養、育成が可能となります。勤労寿命が1.5倍になると経済力、生産力が向上し、雇用状況も市場も改善するので失業率も減ります。頭脳明晰で肉体も頑強で経験値を積んだ高齢者にはみな敬意をはらってついてゆきます。生殖可能年齢の上限は上昇し、子供も増えるでしょう。こんなことを夢想しながら自分の専門分野である皮膚科、美容皮膚科で今何が貢献できるのかを考えています。皮膚科領域での老化とはまずコラーゲンの減少です。このために皮膚は薄くなりシワやたるみができ、血管ももろくなりわずかな外力で紫斑(あおたん)ができたり皮膚がめくれます。また長年の紫外線曝露による皮膚腫瘍の発生や免疫力低下による感染症の増加も同じです。最近、老化に関与しているらしい物質が見つかったそうです。医学の進歩は一朝一夕にではありませんが、遺伝子解析により病気や老化の原因が分かり治療できれば快適な超高齢化社会も夢ではありません。加齢と老化は自然の摂理ですが、そのルールについていけなくなった人類が地球に存在しています。電話や車、飛行機やコンピューターや携帯電話のようにヒトの頭で想像した夢は時々刻々かなっています。そんな人類は今、自分自身の進化を迫られています。