NO.118
2012年10月 『胸痛について』
    東成区医師会理事 福井 栄一
 
 どなたでもこれまでに胸が痛くなったことがあると思います。胸が痛くなる(苦しくなる)病気・疾患は多くあります。詳細に全てを説明することは困難ですので、大きく「救急受診が必要な病気」と「後日医療機関を受診していただいいても大丈夫な病気」に分け、「救急受診が必要な病気」を中心に説明したいと思います。  胸痛を伴う「救急受診が必要=すぐさま命に関わる病気」にもいろいろありますが、基本的に「すぐさま命に関わる病気」は激烈(通常感じることがないよう)な痛みを伴いますので、躊躇なく救急車を呼ぶ等の判断がお出来になると思います。ただ最も有名な胸痛を伴う病気は急性心筋梗塞と思いますが、これは少し注意が必要です。なぜなら痛みの程度が「灼けた鉄槌を胸に突き刺される」程の激痛から「重い感じ」くらいの軽い痛み・違和感まで幅広いためです。心筋梗塞は心臓に血液を送る冠動脈(心臓を冠が覆うように血管が走行しているのでこう呼びます)が閉塞する(つまる)ことによっておこります。この痛みは胸部だけでなくみぞおちに感じることもあります。これは冠動脈のどの部位が閉塞するか・基礎疾患の有無によって変わってきます。例えば糖尿病があると神経障害を認めることがあるのですが、このときは痛みを感じにくくなるときがあります。ただ痛みを感じないのは決してよい傾向ではなく、発見・治療の遅れに繋がるため逆に病態を悪化させる方向に進むことがあります。心筋梗塞による痛みは治療しなければ、基本的にある一定の症状を伴って数時間は持続します。激烈な痛みの場合は皆さんも躊躇なく救急車を呼ぶ等の判断がお出来になると思いますが、なんとなく重い感じが続く(ここが大事です)ときも必ず医療機関を早期に受診しましょう。実際当院にも「朝から胃(みぞおち)が痛いけど、なかなか治らない」といって来院された患者さんで、実は心筋梗塞だった方は何名かいらっしゃいます。心筋梗塞の場合は発症から治療開始までの時間が短ければ短いほど予後が良いため(特に3時間以内)、早期の医療機関受診が望まれます。
その他、大動脈解離・肺塞栓等もありますが、これらは上記のように基本的に命に関わる程の重症の場合は激烈な痛みや呼吸困難を認めますので、病気はわからなくても「これは危ない」と本能的に判断いただけると思います。

 その他の痛み、例えば「素人目にみてもすぐに命には関わらなさそう」(失礼な表現で恐縮です)と感じるようなものは正直救急受診の必要性は低いです。数分程度で治まって、それ以降あまり症状がでないものも後日受診でも大丈夫なことが多いです(逆に短時間に断続的に続く場合は救急受診したほうがよろしいです。)胸痛が持続しても、「皮膚の表面に近いところがぴりぴりする」とか、「ピンポイントでここが何か痛い」とか、「体をねじると胸が痛い」とかいうのは、緊急性に乏しいです。緊急性がある場合は、「このあたり」とは言えても、ピンポイントということはまずありません。みぞおちから胸が痛い・熱く感じる場合は、心筋梗塞(冠動脈閉塞)・狭心症(冠動脈が閉塞していないが血流が悪くなっている場合)の場合もありますので注意が必要ですが、就寝時に症状がある場合は胃酸が逆流している可能性もあります。余裕がある程度の症状なら、まず水を飲んでみましょう。水を飲んで症状が軽くなるようでしたら、胃酸逆流の可能性があります。運動した際に胸痛を認め、安静にするとその後数分間で落ち着くという際は、心筋梗塞(冠動脈閉塞)まではなっていなくても狭心症(閉塞していないが血流が悪くなっている場合)である可能性が高いため、救急ではなくてもいいですが、必ず医療機関を受診しましょう。

 思いつくまま筆を走らせましたが、胸痛を認めたときにまず大事なことは、救急受診が必要か(すぐ命に関わるか)どうかの判断です。胸痛の原因の診断は医療機関でつけてもらえばいいです。救急性の有無の判断において参考にしていただきたい点をまとめると、
・ 痛みの程度(激烈)
・ 痛みの持続(症状は軽くても数時間の間続く)
・ 痛みの性状(部位・胸全体の絞扼感等の痛みの感じ)
です。ご自身のみならず、ご家族が症状を認めたときも上記を参考にしていただいて、冷静に対応していただければと思います。

 また緊急性はなくとも、後々命に関わってくる胸痛の原因となる病気は多々ありますので、どのような疾患においても自己判断することは望ましくなく、必ず医師の診察を受けていただきたいと思います。