NO.124
2013年5月 『がんによる痛みと医療用麻薬』
    東成区医師会理事 林 正則
 
 あらゆるがんは進行すると“痛み”を生じます。がんが神経に浸潤することにより神経痛が生じたり、骨に転移することにより骨転移痛あるいは病的骨折を生じたり、胃や腸などを外から圧迫したり、直接消化管がつまることで腸閉塞をおこしたり、腹水などで腹膜が引き伸ばされたりするなど、がんによる痛みには様々な原因が考えられます。がん患者さんのうち、およそ3/4程度の患者さんが痛みを経験するといわれており、進行がん患者さんでは上記のような身体的な痛みにとどまらず、死への恐怖など精神的な痛みが重なるため、“がんによる痛み”が生じれば日常生活の質はかなり低下するといわれています。“がんによる痛み”を治療するには、なぜ痛みが起こっているか、痛みの原因を正確に診断し、適確に対処する必要があります。たとえば神経痛の薬を使ったり、腸閉塞を解除したり、腹水を抜いたりするのも痛みに対処する方法ですし、心因的な痛みに対して向精神薬を使うことも痛みの治療には必要です。しかし、どうしても痛みがコントロールできなくなれば、医療用麻薬を使うことが珍しくありません。“麻薬”という言葉に対しては一般的にあまりいいイメージはなく、“麻薬を使ったら死期が近い”とか“麻薬中毒になる”とか思いがちですが、これらはすべて正しいことではありません。また医療用の麻薬と、いわゆる大麻やアヘンなどの言葉は全く異なるものです。医療用麻薬はあくまでも“痛み止めの薬”なのです。適切な麻薬を、適切な量や投与方法で適切に使用することで痛みに対してうまく対処できれば生命予後が改善しますし、持続的に痛みを訴えられている患者さんに対する医療用麻薬の使用は、精神的な依存症(中毒)を生じないということは科学的に証明されています。
 医療用麻薬には“モルヒネ”“オキシコドン”“フェンタニル”などいろんな種類があり、注射薬をはじめとして、飲み薬、貼り薬、座薬など様々な薬の形態があります。薬をのめなくなれば、注射薬や貼り薬、座薬で麻薬を体の中に投与する方法があるわけです。身体的な苦痛が解除できれば、精神的な苦痛にもいい影響がでるのは言うまでもありません。がんによる痛みには“突出痛”といって、普段痛みが安定していても、ひどい痛みが急激に襲ってくることもあります。突出痛にも適確な対処が必要となります。
 最近、在宅療養推進が進むなか、がん末期の患者さんが、病院ではなく自宅で療養する機会が増えつつあります。住み慣れた環境で住み慣れた人と、できれば最期まで苦しむことなくという希望をかなえてあげることは本当に素晴らしいことです。ただ、患者さん自身が自宅療養に不安を感じることは言うまでもありませんが、患者さんのご家族も少なからず不安やストレスを感じるようになることも否めません。がん患者さんが在宅での生活を円滑に過ごすためには、少なくとも医療用麻薬に関する正しい理解を深め、痛みをコントロールしてあげることが重要です。