NO.133
2014年3月『エコノミークラス症候群』
    東成区医師会理事 岩本 伸一
 

「先生 私飛行機はファーストクラスに乗ったことがないんですけどエコノミークラス症候群になるんですかね?」という質問を受けたことがあります。
今回はこれについてのお話です。
エコノミークラス症候群とは、「旅行者血栓症」ともいわれ旅行中に起こる下肢の深部静脈血栓症に伴った急性肺動脈血栓塞栓症のことです。飛行機の中では長時間座ったままでいるため、下肢の圧迫による下肢の静脈のうつ滞と水分不足による血液粘度の上昇がおこり、これが引き金になり血栓ができることがあります。着陸し席を立つ際に長時間圧迫されていた足の静脈に付着していた血栓が肺にとび、肺の血管を閉塞させ、急性肺動脈血栓塞栓症が起こります。すなわち突然死の原因となります。この病気は1977年に海外の医学雑誌で初めて報告されました。ファーストクラスやビジネスクラスに乗っている人もエコノミークラス症候群にかかりますが、エコノミークラスの乗客に多く発病する可能性が高いと考えられており、座席間隔が狭く体の動きも制限されていること、機内が常に空調されているため乾燥(機内温度は 24 度前後で、湿度は飛行時間が長くなると 10~20%以下に低下)しているので脱水状態になり易いことが原因ではないかと推測されています。また航空機以外でも、長距離列車、長距離バス、長距離船舶や観劇、パソコンなどで、長時間一定の姿勢を続けておりますと同様の危険があります。急性肺動脈血栓塞栓症は搭乗者4500万人に1人の割合で発生しますが、飛行時間が12時間以上になると26万人に1人の割合に急増するといわれています。最近では地震で自宅が倒壊した被害者で 3 日間以上自動車で寝起きした中高年者の方に、肺塞栓症(エコノミークラス症候詳)が起こったと報告されています。日本宇宙航空環境医学会の「エコノミークラス症候群に関する検討委員会」によるとこの病気の危険因子は下記のように分類されています。
 1) 低危険因子 40 歳以上、肥満、糖尿病、高脂血症、3日以内に受けた小外科手術(内視鏡的・肛門外科・皮膚科・眼科手術など)
 2) 中等度危険因子下肢静脈瘤、心不全、6 週間以内に発症した急性心筋梗塞、経口避妊薬を含む療法、真性多血症、妊娠・出産直後、下肢の麻痺、6 週間
以内に受けた下肢の手術・外傷・骨折
 3) 高危険因子深部静脈血栓症・急性肺動脈血栓塞栓症の既往歴あるいは家
族歴、先天性血栓形成素因、血小板増多症、6 週間以内に受けた大手術(脳外科・心臓外科・整形外科・婦人科・泌尿器科手術など)、心血管系疾患の既往、癌などの悪性腫瘍
予防法としては長時間にわたって同じ姿勢を取らないことです。時々下肢を動かし、歩き回ったり、ストレッチ、体操などをしましょう。血流が妨げられるので足は組まない方がよいです。航空会社によっては座席に座りながらできるストレッチや軽い柔軟体操のビデオを上映することもありますので参考にしてください。飛行機内は予想以上に乾燥しているので充分な水分を補給しましょう。アルコールやコーヒーなどは利尿作用があるので控えめにしましょう。ジーパンなど体を締めつける服は避け、ゆったりとした衣類を身につけましょう。足に弾性ストッキングを使用するのも有効です。危険因子のある人はかかりつけの先生に相談し血液の凝固を防ぐ「抗凝固剤」を処方してもらうことも有効です。
回答は「いいえ、いつもファーストクラスに乗ってる人でもエコノミークラス症候群にはなります。」です。