NO.37
2006年1月 『インフルエンザ脳症』
    東成区医師会理事 増 田 清 和


 今年もまたインフルエンザの流行を迎える季節となりました。今冬は例年と異なりB型インフルエンザの罹患率が高かったのが特徴で、流行予測は全く予断を許しません。前々年度ではSARS(重症呼吸窮迫症候群)の感染騒ぎと重なりましたが、今度は鳥インフルエンザの流行が懸念されています。日本では歴史的に欧米のようなインフルエンザ感染による多数(推定4〜5000万人)の犠牲者を経験したことがないため、インフルエンザの脅威に対する「免疫がない」と言われています。現に日本ではインフルエンザワクチンは未だに任意接種で、接種率が低いのが現状です。

 さて、今回テーマとして取り上げたのは小児のインフルエンザ感染の合併症で最も致死的(約30%)と言われる『インフルエンザ脳症』についてです。これが厄介なのは、感染後の発症が極めて速やか(発熱後平均1.4日)であること、またこの発症メカニズムがまだ解明されていない上に、インフルエンザワクチンが予防として必ずしも有効とは言えないことです。

 この脳症ではっきりしていることは、インフルエンザウイルスが直接脳の組織を細菌感染のように侵すのではなく、脳の血管の内側の細胞(内皮細胞といいます)が障害を受けて、血管から血液の液性成分が漏出することにより脳の浮腫を来し、脳組織が圧迫される結果、意識障害や痙攣が引き起こされるということです。ですから、脳組織の現場にはインフルエンザウイルスが発見されないといういわば完全犯罪のような病気です。

 しかし、この病気をなんとか防ぐ手立てが全くないわけではありません。常識的なことかもしれませんが、まず第一に家族全員がワクチンを接種し、手洗いやうがいを頻回にし、こども本人を決して人込みに連れて行かないことで感染の機会を減らすことであり、第二に他の感染への処置と同様ですが、大事なことはこどもが高熱を出しても決してすぐに解熱剤を使わないということ、そして首やわきの下を冷たいタオルや熱冷まシートなどで冷やす一方、手足を温め水分をできる限り与えて、発汗を促してあげることです。まず、こうした基本を徹底することで、恐ろしい脳症も必ず防ぐことができるはずです。