NO.55
2007年7月 『最近の医者側の不満』
    東成区医師会理事   宮 本  肇


 最近麻疹が東京で流行し、多数の大学が休講に追い込まれている。むかし、麻疹・風疹混合ワクチン注で何千分の一か何万分の一の副作用事故があり、マスコミが必要以上に書きたて、役人が責任回避のため予防注射を強制義務から努力義務にし、親は経済的理由から麻疹、風疹ワクチン注を子供に受けさせなかったために今日の麻疹大流行がある。同様に昭和51〜52年頃の風疹の流行で当時産婦人科医であった私は多数の中絶を施行した。(妊娠初期に風疹にかかると先天性白内障等の障害児が生まれるとのデータがある。)その上中絶胎児の分析にまで協力した。

 20歳未満の人のタミフル服用による異常行動も問題となった。実際インフルエンザに効く薬としてはタミフル・リレンザしかない。タミフルの服用が嫌ならインフルエンザ予防注を、経済的理由があるにせよきちんと受けさせるべきである。

 奈良県大淀町立病院の妊婦クモ膜下出血で死亡の件。私も妊娠中毒症で入院中の妊婦が実はクモ膜下出血で迷った末に脊髄液を採り(当時一般病院には頭部CT装置はなかった。)血性髄液を確認して脳外科に転送した経験がある。私の場合は母体も胎児も助かったが、経過は十二時間以上かかっており、偶然助かったといえる。福島県の市民病院で低在癒着胎盤で帝王切開し、妊婦死亡の件。これも私は経験がある。子宮は収縮することにより止血する。子宮頚部は収縮が悪い、その上癒着胎盤で胎盤をむしりとらねばならない。大量出血する、術者はあせっただろう。私も視野を確保するため両手で血液をすくって、ガムシャラに結紮止血した。妊婦は死ななかったがこれも偶然の結果である。子宮動脈を止めれば出血は止まるが、その時は子宮全摘術をしなければならない。とっさの判断はなかなか困難で、胎盤早期剥離の妊婦の帝王切開の場合、血管内播種性凝固異常症(DIC)を起こして血が止まらない。夜12時〜1時まで開腹状態で1時間子宮全摘すべきかどうか迷った経験がある。この様に術中に子宮全摘すると決断するのは非常にむずかしい。先の産婦人科医は二人共警察に逮捕され、遺族からは訴えられている。不条理なことである。

 妊娠・お産は病気ではないといわれているが、死と隣り合わせであり、インフルエンザにかかるのと同じで、インフルエンザ肺炎、インフルエンザ脳症になり死亡するのと変わりがない。

 更に聖域無き構造改革・医療費抑制とか何とか言われて、この様に報われない危険な職種は先輩として勧められない。日本国憲法で職業選択の自由・移動移住の自由は保障されている。社会全体が認識を改め、支える様にしなければ産婦人科医はどんどん減っていくだろう。

 最後に某産婦人科医が産科を止める第二番目の理由として「いわれなき不条理な訴訟が増えている。」といわれていたが、本当はこれが第一の理由だと思う。                 (元産婦人科医  宮本 肇)