NO.60
2007年12月 『食道裂孔ヘルニア』
    東成区医師会理事   長谷川 宗吉


 皆さんは、ヘルニアと聞けば、出べそ(臍ヘルニア)や脱腸(鼠径ヘルニア・陰嚢ヘルニア・大腿ヘルニア)や背骨のヘルニア(頚椎および腰椎ヘルニア)を思い浮かべますね。しかし、他にもヘルニアがあります。脳ヘルニア・臍帯ヘルニア・横隔膜ヘルニアなどです。その横隔膜ヘルニアの中のひとつに、食道裂孔ヘルニアがあります。

食道裂孔ヘルニアは、心臓の後ろから背骨の前方(胸腔と腹腔を分離する横隔膜の後方)の、食道および迷走神経が通過する穴(裂孔)に起こるもので、滑脱型食道裂孔ヘルニアと傍食道型裂孔ヘルニアとに分かれます。前者では、裂孔部がやや広くなって、胃の上部がスライド(滑脱)し胸部に入った状態で、裂孔部にしめつけられます。その為に生じる主な症状は、逆流性食道炎。胃酸により、胸やけや胸痛をきたします。ほとんどが、薬物療法にて保存的に治療されます。後者では、裂孔部がかなり広くなるため、胃や大腸や他の臓器の突出により胸腔内の心臓や肺臓が圧迫され、心悸亢進・狭心発作・呼吸困難・チアノーゼなどを呈します。また、突出した胃や大腸などの臓器にも、食欲不振・?気・嘔気・嘔吐・腹部膨満や疼痛・嚥下困難・便秘といった症状が出ます。これらは、胸腹部レントゲン検査にて横隔膜の上方に小さな空気像(滑脱型)から大きな空気像(傍食道型)を認めることによって、もしくは造影剤の使用によって、容易に診断されます。

さて、食道裂孔ヘルニアと診断されたとしても、手術療法が必要な人と、薬物療法のみでも全く支障がない人とに分かれます。私は、この疾患の貴重な3人の患者さんを経験いたしました。

1人目は、私が勤務医だった時、そのヘルニアの患者さんをじかに開腹して、直接、食道裂孔部の修復と、胃上部(胃底部)を襟巻状にして食道下部に縫いつけるという噴門形成術を行いました。術後の再発もなく、数年後の造影剤検査でも良好に経過していたことを憶えています。

2人目は、開業医になってから経験しました。70代の女性患者さんで、胃がかなり胸腔に突出していた為に、手術適応と考え、某病院へ紹介しました。そこの医師は大学病院からの応援を得て、最近流行している腹腔鏡下食道裂孔ヘルニア根治術を約2時間半かけて行いました(開腹術だと所要時間90分位)。術後直後は順調でしたが、2ヶ月位してから胸がつかえる感じがあるということで造影剤にて検査をしたところ、ヘルニアの再発を認めました。年齢を考慮して再手術をするのはやめ、薬物療法および食事療法にて様子をみています。術後3年になりますが、良好に経過しています。

3人目は67才の女性で、偶然、胸部レントゲン検査にて、かなり大きな裂孔ヘルニアを発見しました。しかし、今まで全く無症状で過ごして来ましたので手術を拒否されました。そこで薬物療法にて経過観察をしていますが、何ら支障なく生活されております。

以上により、手術をするならば開腹術を、無症状ならば経過観察することが良いのではないかと、私は考えます。開腹せずに遠隔操作にて行う手術は、素手による手術とは違ってかなりの難点があり(言うなれば、箸で豆をつかむようなもの)、大変な熟練と経験が必要であろうと思われるからです。

もし食道裂孔ヘルニアを有する患者さんがおられましたら、信頼のおける医師に相談して下さい。