NO.68
2008年8月 『在宅医療(療養)が崩壊する前に』
    東成区医師会理事 中村 正廣


 在宅医療(療養)は、そこで最期を迎えたい人が受ける医療です。在宅をされるときには、ガンの末期や老衰でも、自分の意思を示せない本人が、家族や医師に書面で亡くなり方を残すことが重要です。ご自分のご両親や高齢者の家族を在宅で見送る機会の多い女性は、このような判断を迫られることもあります。在宅を希望される方は、いつもの場所で家族と共に多くの時間を過ごしたいと望んでいます。しかし、このような願いが徐々に叶えられなくなっています。もっとも長く介護をされる女性が働きに出て、家にいないのです。また、ご自分の病状や余命が分からないため、さらに良い医療を求める気持ちが強く、入院を続けようとされます。家族も、その方の生命への愛情が強く、より高度な医療や栄養補給により、「延命」を意識的に望まれます。また、病院の医師は、痛みや苦しみを取る以外に治療のない方へ、病状や余命について十分に話が出来ていない場合が多いのです。また、在宅で過ごすにあたり、ご本人や家族への心のケアを行い、「かかりつけ医」と共に訪問看護師やケアマネージャを集め、退院前のカンファレンスをすること。このことが、在宅医療(療養)に繋がることをあまり認識されていないのです。必要と感じていても、忙しくて、みなさんを集め相談をする時間が取れない、という現実もあります。また、医療費抑制などによると思われる身体的経済的負担が大きくなり、医師の医療に対するモチベーションの低下などの理由で、自宅の下で開業する医師は徐々に減り、夜間でも駆けつける在宅医は減ってきています。一方、在院日数を減らすことで医療費抑制を目指す医療法の改変で、病院は治療が出来ない方への入院を抑えています。そうしないと病院経営か成り立たなくなって来ています。

そこで、国は24時間の在宅診療所を「在宅療養支援診療所(医療ではない療養)」として、「赤ひげ先生」を急造しました。その診療所の医師たちで、東成区医師会は、かかりつけ医が「サポート医」(副主治医)を持ち、他科との医師、訪問看護師、ヘルパーなどの職種と「24時間在宅医療チーム」を作り、「末期がん患者さん」の情報を共有しながら、夜間、緊急時にも対応出来るようにしました。しかしながら、そのような事情で、この1年間では在宅医療(療養)を受ける患者さんはほとんどありませんでした。

それでは在宅医療(療養)はどうすればよいのでしょう。今では、医師や看護師がいなくても、在宅での死亡確認は家族でも許されています。看取りは家族がするのです。一方、高齢者の3割以上を占める独居者には家族介護がいないため、近隣住民や友人のインフォーマル力を、最期を見守る在宅療養に生かすことが必要になります。医師会が行ったアンケートでは、独居者は寝込んでも近くの家族親族が面倒を見てくれる、と答えています。

欧米は、早くから在宅療養システムのみならず、高齢者や身障者に対する社会のセーフティーネットを、国民や医療に携わる者と国が作ってきました。医療財政や相互扶助に対する国民の意識改革を進めながら、在宅は「住宅」と位置づけ、そこに住む人は、医療やその資源の限界を知り、死生観を話し合う機会を恐れずに、互いの一生を見つめ、スピリチュアルケアの心を育むコミュニティを作る事に積極的に国民が関わってきました。

私たちは、類を見ない超高齢少子化社会に入って、欧米が数十年の時間を費やしてその仕組みを支える意識改革を、我が国は、待ったなしの本番で迎えています。それには健康生活を基本に、将来の自分のこととして区民が真剣に論議し合って、医師会も国の存亡にかかわる大事業として、区民の声を真摯に聞き、国に提案して行きたいと考えています。