NO.84

2009年12月 『運動器不安定症について』
    東成区医師会理事 住本 公日乙
 

 皆さんは運動器不安定症という言葉をご存じですか?ここではその定義や診断方 法などをご紹介致します。
 2008年、日本は平均寿命男性79.29歳(世界第4位)、女性86.05歳(世界第1位)と世界でも有数の長寿国となっていますが、一方、健康寿命という概念も唱えられています。
 健康寿命とは寿命の「質」に着目して、健康に暮らせる期間を表す考え方です。言い換えれば私たち一人一人が寿命の中で、元気で活動的に暮らすことができる長さのことをいいます。ちなみに日本の健康寿命は平均73.6歳(世界第1位)といわれて います。
 この健康寿命に悪影響を与える因子として、運動器(骨・関節・靱帯・筋肉・神経などの人体構成組織)の障害があります。
 もちろん内科的な障害も大きく影響しますが、2004年(平成16年)の国民生活基礎 調査によると、頻度の高い身体自覚症状は男性で1位が腰痛、2位が肩こり、女性で 1位が肩こり、2位が腰痛、3位が手足の関節痛とあります。上位全てが運動器に関 係しています。
 また要介護認定が必要となる原因について、1位が脳血管障害(脳卒中)、2位が高齢による老衰、3位が骨折や転倒、4位が認知症、5位が関節疾患(リウマチなど)と あり、ここでも運動器の障害(3位と5位)が関係しています。つまり生活や人生の質 (QOL)を高め健康寿命を延ばしていくためには、運動器の障害を予防することは必要不可欠だと考えます。
 それでは運動器の障害を予防するためにはどうしたらよいのでしょうか?
 効果的で的を射た運動や体操を実施していくことが重要と考えます。それにより筋力が高まったり、関節が硬くなるのを予防できたり、バランス能力が高まったりする効果以外にも、肩こりや腰痛、関節痛の予防、転倒予防など様々な効果が現れてきます。ここで今回の題目である運動器不安定症という病名の登場です。
 一般的に運動器不安定症とは、「高齢化により、バランス能力および移動歩行能力の低下が生じ、閉じこもり、転倒リスクが高まった状態」を指しますが、更に運動器不安定症と診断されるための基準として、
1 日常生活自立度ランクJまたはA※1(要支援+要介護1,2)
2 運動機能として、開眼片脚起立時間※2 15秒未満、もしくは 3m Time up and go test ※3 が11秒以上とされています。
 私が主に基準としているものは開眼片脚起立時間で、実施方法としては両目をあけたままで両手を腰に当て、「片脚を上げてください」の合図により片脚を約5cm程度床から浮かせます。このとき立っている脚(支持脚)に触れないようにします。15秒未満であれば運動器不安定症と診断されます。ちなみに健常高齢者の基準値として65〜 69歳で40秒、70〜74歳で30秒、75〜79歳で20秒、80歳以上で10秒とされています。
 運動器不安定症と診断されても、上記に示した通り、運動や体操により身体能力は向上し、痛みも緩和していくことがあります。特に筋力などはいくつになっても向上していきますので、いつから初めても遅いということはありません。今後の長い人生を考えても、健康的で活動的な生活が送れた方が有意義だと考えます。

※1 正確には「障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)」を指します。ランクJは「何ら かの障害等を有するが、日常生活はほぼ自立しており独力で外出する」ことを指し、 ランクAは「屋内での生活は概ね自立しているが、介助なしには外出しない」ことを指 します。ランクは更にB、Cに分けられ、各々2つに細分化されます。

※2 両脚立ちと比べて支持基盤が小さくなるので、立っているのが難しくなります。

※3 椅子から立ち上がり3m歩き、方向を転換して元の椅子に戻る時間を測定する検査。 健常な高齢者では10秒以内、移動が自立している場合には20秒以内、30秒以上では移動に注意や介助が必要になります。