「病を正しく恐れること」(令和3年4月、5月号)

東成医師会会長 岩本 伸一

 昨年より蔓延している新型コロナウイルス感染症は再拡大の様相を呈しており長期化する可能性が高いと考えられます。特に御高齢の方の中には感染を恐れるあまり身体的虚弱や精神不安に陥っている方がおられます。今回は「病気を正しく恐れること」についてお伝えしたいと思います。
 日本人の平均寿命が飛躍的に伸びたのは昭和以降であり、それまではせいぜい50年前後でした。故に高齢者特有の疾患である認知症、骨粗鬆症、変形性脊椎症膝関節症などは比較的近年に生じてきたいわゆる現代病とも言えます。
 戦後日本の医療はいわゆる生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症)そして悪性疾患(がんなど)を治療することを優先してきました。これらは医療技術の進歩により予防、早期発見、早期治療すればかなり効果が望める疾患となってきています。結果として日本の平均寿命は格段の進歩を遂げたわけであります。平均寿命が 80年を超え超高齢社会を迎えた今、高齢者の健康寿命の延伸は医療よりもむしろ運動、栄養、社会参加が重要な要素であると様々な研究結果から報告されています。コロナ蔓延以前は母子会さんはじめ地域のコミュニテイが様々な運動、体操、栄養改善の催事を行い重要な役割を果たしてこられました。しかしながら現在は活動も抑えられてきており、そのため高齢者の閉じこもりによるフレイルや精神不安が地域の問題となりつつあります。統計上、要介護状態に陥る一番の要因は運動器疾患(足腰の衰え)であります。一方で新型コロナウイルスも感染形式など少しずつ解明され、ようやくワクチンも開発されてきました。新しい生活様式(マスク、手洗い、三密(密閉、密集、密接)を避けること)や身体的距離を保つことにより一定の感染予防効果は見込めます。また、家の中で体操や運動をすることも重要です。これから新しい知見も出てくるでし ょう。未知のウイルスをやみくもに恐れるのではなく、科学的根拠に基づいた「正しいコロナの恐れ方」を実行していくことが大切です。