「免疫(めんえき)とワクチン」(令和3年6月、7月号)

東成医師会副会長 林 正則

 人間の体には、ウイルスや細菌などの病原体が体内に侵入すると、その病原体を攻撃しながら、より合理的に効果的に病原体を攻撃できるような態勢を作る仕組みが備わっています。これが「免疫(めんえき)」と呼ばれるシステムです。この「免疫」システムが備わると、一度かかったことがある感染症に再び感染しにくくなったり、あるいは感染しても重症化しなかったり、また治療の効果がより表れるようになります。
 ワクチンを体に与えることにより、本物の病原体に感染する前に、予め体内に人工的な感染の状態をつくりだし、この「免疫」システムに病原体の特徴を覚えこますことができるようになります。本物の病原体が侵入する前に、ワクチン接種により免疫のシステムを作っておき、本物の病原体に負けない備えをするわけです。
 現在ワクチンにはいろいろな種類があります。従来のワクチンは、大きく分けると「生ワクチン」と「不活化ワクチン」の2種類があります。生ワクチンは、毒性を弱めた病原体そのものを使います。「不活化ワクチン」は、感染力や病原性(毒性)をなくしたワクチンの総称です。
 一方、現在高齢者から接種が始まっている新型コロナウイルスワクチンは、m(メッセンジャー)RNAワクチンといって、別物のワクチンです。新型コロナウイルスが人間の体内に侵入するためにはウイルス表面にあるスパイクタンパク質というたんぱく質が必要になります。今回のワクチンはこのスパイクタンパク質の設計図を人間の体内に送り込み、それによりスパイクタンパク質を自前で体内で作り出したうえで、それに対する抗体(免疫)を獲得しようとする試みです。mRNAワクチンが人体に実用化されるのは今回が初めてです。まだ人体に及ぼす影響がすべて解明されているとは言えません。ワクチン接種に対する過度な心配は不要と考えますが、ワクチンに対する正しい知識を持ち、問診を受ける際には問診医とよく相談して、接種後の体調変化などに注意するように心がけましょう。