『あたらしい薬が生まれるまで』(令和3年12月-令和4年1月号)

東成区医師会理事 浅井 晃

 歳の初めです。今回は薬の誕生についてのお話です。最近二年間はコロナ騒ぎに終始する中、ワクチンや新たな治療薬が話題となっています。これらの全ての新薬は基礎研究に始まり、様々な段階の臨床実験(薬剤の場合は治療実験ですので、「治験」と呼びます)の過程を経て、最終的に国すなわち厚生労働省の認可を得るべく、有効性(既存の薬と比べて効果が高いか)と安全性(既存の薬と比べて副作用が少ないか)を審査されます。
 治験の第一段階を第I相試験といいます。健康人を対象にして薬剤を極少量投与から始め、安全性や体内での吸収から排泄までの代謝(薬物動態)を確認します。次の第II相試験では、比較的少数の患者さんを対象にして、治験薬の効果と副作用の両方を確認し、その上で最適な使用法を模索研究します。第III相試験では、多数の患者さんを対象として、既存の薬(無い場合は偽薬)との効果・副作用を比較します。対象実薬と全く同じ剤形に作られたフラセボ(偽薬)との比較審査はこの段階で行ないます。このフラセボもしくは既存の実薬との比較試験の際には、投与する患者さんを無作為に二つのグループに分け、投与している医師も投与を受けている患者さんもどちらの薬剤を使用しているかが判らない様にして両グループ間での効果を比較します。この「二重盲検比較試験」で効果が明らかとなれば、薬事審議会を経て薬価承認され、めでたく新薬発売となります。基礎研究から発売までは、最短でもおよそ10年間を要し、途中で少しでも好ましくない結果が出れば中断取り止めとなるので、新薬誕生のハードルは非常に高く、むしろ日の目を見ない薬剤の方が多いのが現実です。
 発売後も副作用チェックは続けられます。処方通りの正しい使用にもか かわらず副作用が出現した場合は、国が完全に保証してくれる制度になっています。